「タンパク質と炭水化物は目標内なのに、脂質だけ毎日オーバーするんだよな……」
「そもそも、何gからが摂りすぎなんだろう?」

食事記録アプリを開くたびに、そんなふうに思っていませんか。調べても「1日およそ50g」「総カロリーの35%以上」「一食10gまで」と答えが割れていて、どれを信じればいいのか分からない。とりあえずサラダ油をオリーブオイルに変えてみた、という段階で止まっている方は多いと思います。

結論から書きます。脂質の「摂りすぎ」に、全員共通のたった1つの数字はありません。あなたの上限は、あなたの1日のエネルギー量から計算して出すもの。電卓さえあれば3ステップで出せます。公的な基準が「グラム」ではなく「1日のエネルギーの何%か」で決まっているからですね。ネットの数字が割れていたのは、それぞれ違う分母で割った結果を載せていたからです。

この記事では、①自分の上限gを出す3ステップ、②その上限に実際の1日を当てる答え合わせ、③明日から動かせる3か所、の順に解説します。あわせて、5年前に私が書いた元記事の「3つの誤り」を本文中で正面から訂正します。脂質は間違えたまま覚えている人がとても多い領域です。私自身がその1人でした。

Contents
  1. 結論:脂質は「減らすもの」ではなく、「自分の上限gを知るもの」です
  2. まず自分の上限を出す。エネルギー比をgに直す3ステップ
  3. 【訂正①】私は「栄養素の約25%」と書いていました。これは誤りです
  4. 上限より先に下限の話を。脂質を削りすぎると何が起きるか
  5. 答え合わせ:から揚げ弁当と晩酌のつまみで、1日何gになるか数えてみる
  6. 見えない脂質:あなたの脂質の大半は、油をさす前から入っている
  7. 揚げ物1個で脂質は何g増えるのか。油をたっぷり使うと増えるのか
  8. 量と質は別問題。オリーブオイルに変えてもgもkcalも減りません
  9. 【訂正②】「良い油=中鎖脂肪酸」は誤りでした。分けているのは鎖の長さではありません
  10. 【訂正③】「4倍速く燃える」という数字は撤回します
  11. 量を減らすなら、まずここから。飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の位置づけ
  12. じゃあ何の油を買えばいいのか。「圧搾」「米油」で迷っている人へ
  13. 脂質で血糖値は上がるのか。私はここを長いあいだ勘違いしていました
  14. 溜まった脂肪は簡単には戻らない。だから前始末のほうが早い
  15. 明日から動かせるのは3か所。弁当・つまみ・調味料
  16. よくある質問
  17. まとめ:数字を覚えるのではなく、自分の数字を1回出す

結論:脂質は「減らすもの」ではなく、「自分の上限gを知るもの」です

この記事の結論を先に置きます。脂質は身体にもちろん必要です。ただし現代人は、基本的に取りすぎています。5年前の元記事から変えていません。

脂質は細胞膜やホルモンの材料になり、脂溶性ビタミンの吸収を助けます。削れば削るほど良いものではないんですね。一方で農林水産省は、脂質のとりすぎが肥満や循環器疾患などのリスクを高めると注意を促しています。必要だけれど余りやすい。

多くの人がつまずくのは「じゃあ何gまで?」の一点でしょう。ここで起きているのは、基準が%で決まっているのに、みんながgで知りたがっているというものさしのズレです。ですからこの記事は「50gです」と言い切らず、あなたの数字をあなたが出せる状態にして返すことをゴールにします。

※健診結果のどの項目を先に見ればいいのかは、健康診断の数値、正しく読めていますか?で先に整理しておくと、この記事も読みやすくなります。

なお私は元ドラッグストア店員で、10年ほど売り場に立っていました。加えて3歳から1型糖尿病の当事者です。それでも脂質については長いこと勘違いしたまま。だからこそ訂正は黙って消さず、見出しを立てて書きます。

YU人
YU人
結局さ、1日何gまでならセーフなの?ネットで50gって見たんだけど、それって僕にも当てはまるの?
とりじん
とりじん
その50gは「2,000kcalくらいの人」の数字なんです。分母が違えば答えも動くので、まず自分の分で計算してみましょう。

まず自分の上限を出す。エネルギー比をgに直す3ステップ

ここは読み流さずに、スマホの電卓を開いてほしいところ。3回叩けば終わります!

Step1:自分の1日のエネルギー量を置く

年齢・性別・活動量で必要量は変わります。とはいえ、正確な値を調べようとして止まるのが一番もったいない。食事記録アプリの目標カロリーをそのまま使って構いません。健診で栄養指導を受けたなら、そのとき言われた数字で。目安が何もなければ、2,000kcalと2,600kcalの両方で計算してみてください。

Step2:そのうち20%以上30%未満が、脂質からとるエネルギー

農林水産省は、日本人の食事摂取基準(2025年版)の「脂肪エネルギー比率」の目標量を「1歳以上の男性・女性で20%以上30%未満」としている、と説明しています。ここが公的に決まっている部分。

  • 2,000kcalの人 → 2,000×20%〜30% = 400〜600kcal
  • 2,600kcalの人 → 2,600×20%〜30% = 520〜780kcal

Step3:脂質1gあたり約9kcalで割る

栄養表示で広く使われる換算では、脂質は1gあたり約9kcal。さきほど出したkcalを9で割ればグラムになります。

  • 2,000kcalの人 → 400〜600 ÷ 9 = 約44〜67g
  • 2,600kcalの人 → 520〜780 ÷ 9 = 約58〜87g

これで終わりです。よく見かける「1日およそ50g」は2,000kcal前後の人の真ん中あたりを取った数字で、全員の上限ではありません。ネットの回答が割れていた理由もこれ。分母が違っただけです。

飽和脂肪酸の上限は、同じやり方でもう1本引く

脂質全体とは別に、飽和脂肪酸という区分にも目標量があります。農林水産省は「18歳以上の男女の飽和脂肪酸摂取の目標量を、総摂取エネルギーの7%相当以下としています」と記載。同じ計算をすると、こうです。

  • 2,000kcalの人 → 2,000×7% = 140kcal ÷ 9 = 約15g
  • 2,600kcalの人 → 2,600×7% = 182kcal ÷ 9 = 約20g

「脂質全体の上限」と「飽和脂肪酸の上限」は別物です。脂質全体は44〜87gの世界、飽和脂肪酸は15〜20gの世界。健診結果が気になっている人には、後者のほうが先に効いてきます。

なお、ここで出した数字は目標量であって、1日超えたら病気になる線ではありません。週単位で傾向を見るためのものさしです。数値目標や治療方針は主治医の指示に従ってください。

【訂正①】私は「栄養素の約25%」と書いていました。これは誤りです

ここで1つ目の訂正をします。5年前の元記事で、私はこう書いていました。

実際脂質は意識しなくてもかなり必要数は取れます。栄養素の約25%ほど取れるとOKなのですが

この「栄養素の約25%」という書き方は誤りです。取り下げます。

何が違うのか。「栄養素の25%」と書くと、食べたものの重さや量の割合に読めてしまいます。実際の目標量は、前の章のとおり1日の総エネルギー(kcal)に占める割合です。分母がまったく別物になっている。数字が25と20〜30で近いぶん、余計にたちが悪い誤りでした。

なぜこう書いたのか。%で示された基準を、g管理の頭のまま読んでしまったからだと思います。私だけの間違いでもありません。「脂質は1日の20%と言われているので計算すると約30gになる」という質問も見かけます。1日の食事量をなんとなく置いて、その20%を取る発想ですね。気持ちはとても分かります。

ただ、この取り違えをしたままだと、出てくる数字が本来の半分以下になることもあります。%はエネルギーの%。だから一度kcalに直してから9で割る。訂正①は、そのままStep2とStep3が要る理由でもあります。

上限より先に下限の話を。脂質を削りすぎると何が起きるか

上限の話ばかりする記事が多いので、先に下限に触れます。「摂取量が少なすぎる日が続くとどうなるのか」「肌がガサガサになると聞いた」という不安は、Q&Aサイトにも実際に書き込まれています。減らす方向にも、ちゃんと底があります。脂質が身体で担っている役割は、ざっと次のとおり。

  • 細胞膜の材料になる
  • ホルモンの材料になる
  • 脂溶性ビタミン(A・D・E・K)の吸収を助ける
  • エネルギー密度が高く、少量でエネルギーを確保できる

3つ目の脂溶性ビタミンは、元記事でも触れた覚えやすいネタです。D・A・K・Eと並べて「DAKE(だけ)」と覚えると忘れません。この4つは水より脂に溶けるので、油と一緒に食べたほうが吸収されやすい。

ただし、肌については断定しません。「脂質を増やせば肌が良くなる」とは書けません。そこまで言える根拠を示せないからです。書けるのは、極端に削ると脂溶性ビタミンの吸収を助ける働きまで削る可能性がある、というところまで。

下限も、上限と同じ式で出せます。エネルギー比20%が下側の線なので、2,000kcalの人なら約44g、2,600kcalの人なら約58gあたり。脂質の目標量は「上限だけ」ではなく「幅」で示されていると考えると、頭の中がすっきりします。

脂質を含む食品の代表例として和食器に盛られた焼き目のついた塩さばの切り身

答え合わせ:から揚げ弁当と晩酌のつまみで、1日何gになるか数えてみる

上限が出たら、次は答え合わせ。数字を眺めるだけでは、自分の食べ方は1ミリも見えません。デスクワーク中心の会社員のよくある1日を例に置きます。数値はすべて日本食品標準成分表(八訂)の値から計算しました。

朝:トースト+バター

  • 角形食パン 6枚切り1枚(約60g)……脂質 約2.5g
  • 有塩バター 10g……脂質 約8.1g

朝だけで約10.6g。パンよりバターのほうが多いのがポイント。

昼:から揚げ弁当

  • から揚げ 100g(若どりもも肉・皮つき)……脂質 約18.1g
  • ごはん 250g……脂質 約0.8g
  • 付け合わせのマヨネーズ 大さじ1(12g)……脂質 約9.1g

昼で約28.0g。ごはんはほとんど脂質を持っていません。炭水化物は目標内なのに脂質だけ跳ねる理由が見えてきます。

夜:晩酌のつまみ+夕食

  • 炒め物に使った調合油 大さじ1(12g)……脂質 約12.0g
  • ウインナーソーセージ 3本(約45g)……脂質 約13.8g
  • ポテトチップス 1袋(60g)……脂質 約21.1g

夜で約46.9g。1日の合計はおよそ85.5gになりました。

出した上限と並べてみる

2,000kcalの人の目安が約44〜67g、2,600kcalの人でも約58〜87g。つまりこの1日は、2,000kcalの人ならかなりの超過、2,600kcalの人でも上限ぎりぎりです。突出している1品もはっきりしています。ポテトチップス1袋の21.1g。から揚げ100gの18.1gより多いんです!「揚げ物なんてそんなに食べてない」と思っていても、夜のスナック菓子1袋で昼の主菜を超えます。

一言添えます。毎日きっちり数える必要はありません。1週間のうち3日数えれば、食べ方の癖は十分に見えます。ちなみに私は、主治医に言われた目標値をベースに、献立のアイデア出しや記録の整理を生成AIに手伝わせています。ただし治療方針の判断までは任せられません。下ごしらえ役ですね。

YU人
YU人
え、油を控えてるのに脂質オーバーになるってどういうこと?揚げ物なんてそんなに食べてないよ。
とりじん
とりじん
油をさす前から、食品の中にもう入っているんです。私はこれを「見えない脂質」と呼んでいます。

見えない脂質:あなたの脂質の大半は、油をさす前から入っている

脂質は、大きく2種類の入り方をします。

  • 見える脂質……サラダ油、バター、ドレッシング、マヨネーズ。自分の手で足しているぶん
  • 見えない脂質……食品そのものに最初から入っているぶん

後者の代表は、肉の脂身、ひき肉、ソーセージ、ナッツ、チーズや生クリーム、クッキーやスナック菓子、ラーメンのスープ、外食のたれ。前の章の1日を思い出してください。85.5gのうち、自分の手で足した油・マヨネーズ・バターは合計29.2g。残りの56gあまりは、買った時点ですでに中に入っていました。

これが「調理油だけを減らしても数字が思ったほど動かない」理由です。しかもオリーブオイルに持ち替えて実際に入れ替わるのは、この日なら炒め物の12.0gだけ。85.5gのうちの12gです。マヨネーズもバターも、そのまま残ります。当てた場所が狭かった、ということですね。

では見えないものをどう見るか。加工食品と中食は、パッケージの栄養成分表示を見る癖をつけるだけで一気に見えます。脂質の欄は、たいてい熱量のすぐ下。買う前に1秒だけ見る。それだけで半分くらいは可視化されます。逆に家の料理を毎回グラムで量るのはおすすめしません。まず続かないからです。

揚げ物1個で脂質は何g増えるのか。油をたっぷり使うと増えるのか

よくある誤解を1つ外します。鍋に入れた油の量や、揚げていた時間で、食品に入る脂質量が決まるわけではありません。800mlの油で揚げたからといって、その800ml分が食材に移るわけではないんですね。入るのは主に衣が吸った分です。自治体の食育資料などで紹介されている吸油率の目安を並べると、傾向が見えてきます。

  • 素揚げ……およそ3〜8%
  • から揚げ(粉をまぶす)……およそ6〜8%
  • フライ(パン粉)……およそ10〜20%
  • 天ぷら(衣が厚い)……およそ15〜25%

並べると、衣が厚いもの・表面積が大きいものほど吸う関係が見えます。エビフライが多めなのも、パン粉という吸油しやすい衣をまとっているからですね。

では1個あたり何gか。成分表から逆算すると、から揚げ(若どりもも・皮つき)は100gで脂質18.1gなので、1個25gなら4〜5g前後。店や家庭のレシピで簡単に上下しますが、「1個で数g単位の話になる」感覚が持てれば十分です。

減らし方も極端にしなくて大丈夫。衣を薄くする、素揚げや焼きに寄せる日を作る、そして同じ日に揚げ物を2品重ねない。最後の1つが一番効きます。前の章の1日も、昼のから揚げと夜のポテトチップスが重なって85gまで積み上がりました。

衣や表面が油を吸う揚げ物の例として白い器に山盛りにされたフライドポテト

量と質は別問題。オリーブオイルに変えてもgもkcalも減りません

サラダ油をオリーブオイルに変えた。健康のためにやったのに、健診の数値は動かなかった。この話、売り場にいた頃から本当によく聞きました。

先に言っておくと、その選択自体は悪い手ではありません。脂肪酸の内訳は確かに変わります。ただ、変わったのは「質」であって「量」は1gも減っていない。成分表で見ると調合油は100gあたり脂質100.0g・886kcal。オリーブオイルに持ち替えても、大さじ1は大さじ1のままです。

ここを整理すると、頭の中で衝突していた2つの情報が片付きます。

  • 量の軸……何gまでか。Step1〜3で出した自分の数字で管理する
  • 質の軸……どんな脂肪酸を多く摂っているか。飽和・不飽和の内訳

「油は悪」も「良い油は健康」も、どちらも間違いではありません。ただし違う軸の話をしています。オリーブオイルへの変更は質の軸の作業で、量の軸は手つかずのまま。だから数字が動かなかった。ここから先は、質の軸だけを扱います。

YU人
YU人
良い油って中鎖脂肪酸のことでしょ?オリーブオイルもナッツも、それって聞いたことあるけど。
とりじん
とりじん
そこ、私も同じように書いていました。でも違うんです。順番に外していきましょう。

【訂正②】「良い油=中鎖脂肪酸」は誤りでした。分けているのは鎖の長さではありません

2つ目の訂正です。この記事で一番はっきり書くべき場所なので、ぼかさずにいきます。元記事にはこうありました。

次に良い油!中鎖脂肪酸と言う分類です!(中略)こちらは、ナッツ類・青魚・オリーブオイル・エゴマオイル等の健康的な食材として有名なラインナップが挙げられます。

誤りです。取り下げます。並べた食材は、どれも中鎖脂肪酸が主役の食品ではありません。

中鎖脂肪酸が多いのはココナッツ側です

脂肪酸は、炭素がいくつ連なっているかで短鎖・中鎖・長鎖に分かれます。難病情報センターの用語解説では、中鎖脂肪酸は炭素数6〜12の脂肪酸とされ、多く含む食品としてココナッツオイルやパーム油が挙げられています。私が「良い油」として並べた食材群とは、まったく別のグループでした。

オリーブオイルもえごま油もナッツも青魚も、全部「長鎖」です

元記事が「良い油」として挙げた食材の主な脂肪酸を、炭素数で並べます。

  • オリーブオイル……オレイン酸(炭素数18)
  • えごま油……α-リノレン酸(炭素数18)
  • 青魚……EPA(炭素数20)・DHA(炭素数22)
  • ナッツ……オレイン酸やリノール酸(いずれも炭素数18)

全部18以上、つまりすべて長鎖脂肪酸です。元記事は「悪い油=長鎖脂肪酸」と書いていましたから、その定義だと健康的とされる食材が丸ごと「悪い油」側に入ってしまう。自分の文章が矛盾していたわけです。

実際に良し悪しを分けているのは、鎖の長さではありません

では何が分けているのか。飽和か、不飽和か。そして不飽和ならどの種類か、です。農林水産省の説明では、脂肪酸は「炭素間に二重結合をもたないもの」を飽和脂肪酸とし、二重結合を持つものを不飽和脂肪酸として区別しています。用語も最小限だけ整理します。

  • 脂質と脂肪酸……パーツが脂肪酸、組み立てたものが脂質
  • 飽和脂肪酸……肉の脂身・バター・乳製品に多い
  • 一価不飽和脂肪酸……二重結合が1つ。オリーブ油のオレイン酸が代表
  • 多価不飽和脂肪酸……二重結合が複数。n-3系(EPA・DHA等)とn-6系(リノール酸)

なぜ間違えたのか。「体に良いと言われる油」と「燃えやすいと言われる分類」を、なんとなく同じ棚に入れてしまったのだと思います。

長鎖の一価不飽和脂肪酸オレイン酸を多く含むオリーブオイルとオリーブの実

【訂正③】「4倍速く燃える」という数字は撤回します

3つ目です。元記事にはこう書いてありました。

元々脂肪は身体に溜まりやすい性質でしたが、実に4倍早く身体のエネルギーとして使用されます。

この「4倍」という数字は撤回します。出所を探しましたが、私が確認できる一次情報にはたどり着けませんでした。大事なのは別の倍率に差し替えないこと。「実は3倍でした」と書き直せば形は整いますが、間違いを新しい間違いで塗り替えているだけです。裏が取れなかった数字は、数字ごと消す。

そのうえで釘を刺しておきます。中鎖脂肪酸であっても、脂質は脂質です。使い切れなかったぶんは蓄えに回る。元記事の一文はそのまま残しましょう。「食べるだけで痩せるサプリメントなんて存在しない」。売り場に10年いた人間としても、この認識は変わりません。「調べるほど答えが割れる」ときは出所を確認できる数字だけを使うのが早道です。

量を減らすなら、まずここから。飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の位置づけ

質の軸で優先順位をつけます。脂質全体の上限より先に効いてくるのは、飽和脂肪酸のほうです。目標量は総エネルギーの7%以下、2,000kcalなら約15g、2,600kcalなら約20g。脂質全体の44〜87gに比べると、ずいぶん狭い枠です。

農林水産省は、飽和脂肪酸をとりすぎると血中総コレステロールが増加し、心筋梗塞などの循環器疾患のリスクが増加する可能性があると説明しています。健診でLDLコレステロールに印が付いた方には、脂質の総量より先に見る価値のある区分ですね。多く含む食品は意外と身近で、肉の脂身、バター、生クリーム、チーズ、洋菓子、ソーセージなど。前の章で数えた1日にも、バター10gとウインナー3本が入っていました。

中性脂肪の数値そのものが上がると身体で何が起きるのかは、中性脂肪が高いとどうなる?本当は怖い理由で掘り下げています。

トランス脂肪酸は、必要以上に怖がらなくていい

脂質の話になると必ず出てくるのがトランス脂肪酸ですが、ここは事実をそのまま書きます。WHOは、食品からとるトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%に相当する量よりも少なくするよう勧告しています。一方で農林水産省の推計(平成17〜19年度)によれば、日本人が食品からとっているトランス脂肪酸は1人1日あたり平均0.92〜0.96g、平均総エネルギー摂取量の0.44〜0.47%に相当。勧告の1%に対して、平均で見れば半分以下ですね。

もちろん食べ方の偏りが大きい人はこの限りではありません。ただ、平均的な日本人には、トランス脂肪酸を血眼で避けるより、脂質そのものと飽和脂肪酸の量を整えるほうが先です。農林水産省も、トランス脂肪酸だけでなく飽和脂肪酸を含めた脂質のとりすぎ、食塩のとりすぎに注意するよう呼びかけています。

じゃあ何の油を買えばいいのか。「圧搾」「米油」で迷っている人へ

売り場に立っていた頃、「体にいい油はどれですか」と聞かれる立場でした。正直、この質問に一言で答えるのはとても難しいです。銘柄で答えると、その人の使い方に合わないことが多いからですね。ここでは特定の商品を持ち上げも批判もせず、現実的な考え方を3つ置きます。

① 1本に決めない。用途で分ける

油を1本に絞ろうとするから決まらないのだと思います。加熱に使うものそのままかけて食べるもので分ければ、選択はぐっと楽に。えごま油やアマニ油に多いα-リノレン酸は酸化安定性が低く、加熱調理には向かないとされています。この2つは生で使うのが基本、と覚えておくといいでしょう。

② 「圧搾」は搾り方の表示です

圧搾は、原料に圧力をかけて油を搾る製法のこと。これに対して、油分の少ない原料から溶剤を使って取り出す抽出法があります。つまり「圧搾」はどう搾ったかを示す言葉で、健康度のランクではありません。圧搾だから体にいい、と断定はできない。風味や好みで選ぶ理由にはなります。

③ 高い油を買うことを目的にしない

値段の高い油に変えても、大さじ1は大さじ1のまま。量の軸は動きません。高い油に買い替えるより、揚げ物を1品減らすほうが、数字ははるかに素直に動きます。予算に無理があるなら、油は今のままで構いません。まずは量の軸から手を付けてください。

脂質で血糖値は上がるのか。私はここを長いあいだ勘違いしていました

先に自分の話をさせてください。元記事で、私はこう告白しています。

最後に血糖値との相関性について、私もここに勘違いがありまして…昔は全く上がらないと思っておりました

私は3歳から1型糖尿病で、インスリンと血糖値の管理は毎日の生活そのものです。それでも長いあいだ、「脂質は血糖値に関係ない栄養素だ」と思い込んでいました。

まず一般論を整理します

血糖値を直接上げるのは、主に糖質です。脂質は、それ自体が直接血糖値を上げる栄養素ではありません。「脂質でも血糖値は上がる」と単純に言い切ると誤りになる。元記事は、この点で言葉が足りていませんでした。

ただし無関係でもありません。脂質を一緒に食べると、胃から先へ食べ物が送られる速度が遅くなります。その結果、一緒に食べた糖質の吸収と血糖の上がり方が緩やかに、そして長くなる方向に働く。「上げる」のではなく「上がり方を変える」が正確です。

ここからは、1型糖尿病当事者としての私の実感です

ここから先は一般論ではありません。私の場合は、脂質の多い食事をとった日、時間をおいてから血糖が動くことがあります。直後だけを見て打つと、後になって想定と違う動きをする。インスリンのタイミング調整が難しくなる感覚は確かにあります。

これはすべての人に当てはまるわけではありませんし、私の感覚がそのまま誰かの数字になるわけでもありません。数値目標や治療方針は主治医の指示に従ってください。なお元記事の「脂肪が増えるとインスリンの効きはどんどん悪くなる一方です」も、私が断定できる裏付けは示せません。言い過ぎでした。

血糖値が緩やかなら太りにくい、とは言えません

「一緒に摂ると太ると言うけれど、血糖値は緩やかになるはず。どっちが正しいの?」という疑問にも触れておきます。答えは血糖値の上がり方と、太る太らないは別の指標だということ。緩やかになっても、食べたエネルギーの総量は変わりません。

糖質側の各論、GI値の考え方についてはGI値とは?夏のだるさ・太る原因にまとめてあります。

溜まった脂肪は簡単には戻らない。だから前始末のほうが早い

「摂りすぎた脂質は、そのまま全部体脂肪になるんですか?」という質問をよく見ます。回転寿司で食べすぎた翌日に不安になる、あの感覚ですね。答えは「全部そのまま」でも「全部出ていく」でもありません。脂質はエネルギー源としても使われ、身体を作る材料にもなります。そのうえで使い切れなかったぶんが蓄えに回る。食べた85gがそのまま85gの体脂肪になる足し算ではありません。

いったん蓄えに回ったものは、身体からすると非常用の備蓄。すぐには使ってくれません。「人間の体質は旧石器時代から変わっていない」という説明をよく見かけますし、元記事にも書きました。おもしろい見方ですが、あくまで比喩・通説として受け取ってください。

減らす側の話は、どうしても地道になります。運動をして疲れた身体の回復に、少しずつ使われていく。私自身、運動した翌日は身体の張りが明らかに軽く、デスクワークだけの日との差が分かります。ただ、体重計の数字が翌日に動くわけではない。千里の道も一歩から、というやつです。

だからこそ、入るほうを整える「前始末」のほうが、結果的に早い。次の章で、その具体的な3か所を出します。

YU人
YU人
で、結局明日から僕は何を変えればいいの?から揚げ弁当って禁止?
とりじん
とりじん
禁止しなくて大丈夫です!動かす場所を3つに絞ったほうが、結果的に長く続きますよ。

明日から動かせるのは3か所。弁当・つまみ・調味料

数字の話で終わらせても意味がないので、明日の昼と夜で実行できる粒度まで落とします。動かす場所は3つだけです。

① 昼の弁当は「回数」で管理する

から揚げ弁当を禁止しません。禁止すると続かないからです。代わりに揚げ物が主菜だった日を1週間で数えることにします。週4日が揚げ物なら、1日を焼き魚や生姜焼きに替える。指標は「何gだったか」ではなく「焼き・蒸しの主菜にした日が週に何日あったか」。記録アプリを開かなくても頭の中でできます。

② 夜のつまみは我慢ではなく置き換え

1日を数えたとき、突出していたのはポテトチップス1袋の21.1gでした。ただ「我慢しろ」で我慢できるなら、最初から悩んでいないはず。ですので置き換えで考えます。枝豆、冷奴、魚の缶詰、ゆで卵あたりが手軽です。

ひとつ注意点を。ナッツは「体にいいから無制限」ではありません。アーモンドは100gあたり脂質51.8g。25粒でおよそ25gとすると、脂質は約13g。質は良くても、Step3の上限にしっかり乗ってきます。

魚に寄せたいけれど調理が面倒、という方はサプリより鯖缶。魚を食べない人こそ試したい習慣が近道になると思います。

③ 調味料とかけるもの

マヨネーズ大さじ1で脂質9.1g、ドレッシングやたれも同じ性質です。これが「見えない脂質」の最後の一押し。やめる必要はありません。かける前に、一度スプーンに出してみる。直接かけると、思っているより多く出ます。

お菓子については、責める書き方をしません

元記事で私は、お菓子は「マイルドドラッグ」と呼ばれると書きました。学術用語ではなく、そう呼ばれることがある、という程度の通俗的な表現です。断定できるものではありません。

そのうえで、ここは今でも本心なので残します。脂質は美味しいんです。エネルギーの塊を身体が欲しがらないはずがない。うまく減らせない自分を責める必要はありません。減らせなかった週があっても、翌週にまた3日だけ数えればいい。

つまみの置き換え候補として白い背景に並べられた素焼きアーモンド

よくある質問

脂質が1日100gは摂りすぎですか?糖質を抑えていれば問題ないと聞きました

1日のエネルギー量によります。総エネルギーの20%以上30%未満が脂質の目標量なので、2,000kcalの方なら約44〜67gが目安になり、100gは大きく超えます。糖質を抑えても脂質1gあたり約9kcalというエネルギーは変わりません。まずご自身の上限を計算してみてください。

摂りすぎた脂質は、そのまま全部体脂肪になるのですか?

食べた脂質がそのまま同じ重さの体脂肪になるわけではありません。脂質はエネルギー源としても使われ、使い切れなかった分が蓄えに回ります。ただし体外に出ていく量に期待はできないので、入る量を整えるほうが現実的です。

糖質と一緒に摂ると血糖値の上がり方が緩やかになります。それなら太りにくいのでは?

血糖値の上がり方と、太る太らないは別の指標です。脂質は胃から先へ送られる速度を遅らせるため糖質の吸収は緩やかになりますが、食べたエネルギーの総量は減りません。1つの指標だけで判断しないほうが安全です。

脂質を減らしすぎると肌に影響が出ますか?下限はどれくらいですか?

肌への影響を断定できる根拠は示せません。ただ脂質は細胞膜やホルモンの材料で、脂溶性ビタミンの吸収も助けます。下限の目安は上限と同じ式で出せ、総エネルギーの20%にあたる量です。2,000kcalの方なら約44gが目安になります。

「一食10g以上は摂りすぎ」という説を見ました。本当ですか?

1食あたりの固定値は、公的な基準としては示されていません。食事摂取基準が定めているのは1日の総エネルギーに占める割合です。毎食きっちり割る必要はなく、1週間の合計で見るほうが現実的だと思います。

まとめ:数字を覚えるのではなく、自分の数字を1回出す

結論をもう一度。脂質は身体にもちろん必要です。ただし現代人は、基本的に取りすぎています。5年経っても、ここは変わりませんでした。

持ち帰っていただきたいのは「50g」という数字ではありません。自分の1日のエネルギー量 × 20〜30% ÷ 9kcalという出し方のほうです。これさえ持っていれば、次にどこかで違う数字を見ても揺らがなくなります!

今回訂正した3点も振り返っておきます。

  • 訂正①……「栄養素の約25%」は誤り。目標量は総エネルギーに占める割合
  • 訂正②……「良い油=中鎖脂肪酸」は誤り。オリーブ油・えごま油・ナッツ・青魚はすべて長鎖で、分けているのは飽和か不飽和か
  • 訂正③……「4倍速く燃える」は撤回。別の数字にも置き換えません

間違えたまま5年放置していたのは、正直かなり気まずい。それでも書き直せる場所があるのはありがたいですね。

最後にもう一度。この記事の数字はあくまで一般的な目安です。数値目標や治療方針は主治医の指示に従ってください。

今回の内容も皆様のQOL(生活の質)向上のお役に立てれば幸いです。それではノシ