寒くなって外を歩く日が減ると、気になってくるのが家でできる腕立て伏せ。動画で回数の話を見て、毎日やらないと効果がないのかと迷っている人に向けて、元の資料を確かめました。

結論から書くと、毎日でなければ効かないという根拠は見つかりませんでした。厚生労働省のガイド(2024年1月)が示す筋トレの目安は週2〜3日で、休む日も大事という考え方。かといって、毎日やるのが悪いとも言えません。

Contents
  1. 腕立て伏せは毎日で効果が上がる?先に結論
  2. 回数より大事な3つの目安
  3. 毎日やるのは悪い?週2回と比べる
  4. きっかけの動画の話はどこまで本当?
  5. 腕立て伏せは1日何回?25回の裏付け
  6. 効果が出る部位は?約20の筋肉の話
  7. 食後の血糖の話は範囲を限って読む
  8. 脳の物質・朝のホルモン・2か月の話
  9. 40回の研究を回数ごとの表で読む
  10. 「40回」を合格の線にしなくていい理由
  11. 腕立て伏せができない人の4段階
  12. 腕立て伏せができない女性と負荷の数字
  13. 続ける目安:回数の決め方と翌日の体
  14. 腕立て伏せだけでは全身にならない
  15. 痛いときにやめる目安と相談先
  16. よくある質問
  17. まとめ
  18. 数字の根拠

腕立て伏せは毎日で効果が上がる?先に結論

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(2024年1月)が勧める筋トレは週2〜3日。この筋トレには、自分の体重を使う腕立て伏せも含まれます。

腕立て伏せを毎日やれば効果が上がるのか。効いてくるのは日数より、やった量の合計です。25研究の分析(Schoenfeldら、2019年)によると、総量をそろえれば、週の日数で筋肉の大きさに差は出ませんでした。

では「1日何回か」は。調べた範囲で、最適な回数を決めた研究は見つかりませんでした。

寒い時期はこたつで動かない時間も増えがち。そのまま寝てしまう日もある人は、先に体への負担を確かめておくと安心です。

こたつで寝ると体に悪いのはなぜ?|喉・だるさ・やけどの3つ

回数より大事な3つの目安

日付の数字が並ぶ白いカレンダーを斜めから写した写真

腕立て伏せを考えるときの軸は、回数ではなく次の3つです。どれも厚生労働省のガイド2023に書かれている内容を、短くまとめました。

目安中身出どころ
週2〜3日休む日を入れる厚労省ガイド2023
できなくなる所まで息をこらえない同上
強い痛みで止める胸の痛みなども同上

「週2〜3日」は腕立て伏せだけの数字ではなく、筋トレ全体の目安。ガイドは、自分の体重を使う運動の例に腕立て伏せとスクワットを挙げています。

1つ目は次の見出しで、2つ目は「続ける目安」、3つ目は「やめる目安」で詳しく扱います。

YU人
YU人
毎日できない日があると、もう意味がない気がしてしまいます。週に何日できれば足りるのでしょう。
とりじん
とりじん
公的な目安は週2〜3日です。毎日かどうかより、その数字をどう読むかを一緒に見ていきましょう。

毎日やるのは悪い?週2回と比べる

週2〜3日は休む日込みの目安

週2〜3日になった理由は、ガイドに2つ書かれています。効果を確かめた研究で最も多く採用されていた頻度だったこと。そして、休む日を念頭に置いたことです。

ガイドは、筋肉を休める時間を、負荷を少しずつ上げることと同じく重要だと説明。同時に、この数字は1つの目安で、個人差があるとも書いています。

つまり、毎日を禁止する書き方ではないということ。「週3日より多いと損」とも「毎日は悪い」とも読まないのが、資料に沿った受け取り方でしょう。

差を作るのは日数より総量

先ほどの分析(Schoenfeldら、2019年)には続きがあります。総量をそろえない比較では週の日数が多いほうが有利でしたが、週1日と週3日以上の差は小さいという結果でした。

筋力はどうか。22研究の分析(Grgicら、2018年)では、週1回から週4回以上へ、効果の大きさが0.74から1.08へ増えました。ただ、総量をそろえた比較では差が出ていません(p=0.421)。

米国スポーツ医学会(ACSM)の2026年の見解も、137のレビューをまとめて同じ方向です。総量をそろえると週1日と週5日超で筋肉の大きさに差がなく、筋力は週2回以上で高まるとしています。

週2回は週1回より筋肉が大きくなった、という報告もあります(Schoenfeldら、2016年、10研究)。週3回が週2回より上かは、この分析では決着していません。

毎日やるほど伸びるように見えるなら、増えた総量の分と読むのが素直でしょう。ただ、ここは推測です。毎日の腕立て伏せを週2回と直接比べた試験は見つかりませんでした。

量が多すぎる心配も気になるところ。ガイドは、やり過ぎで効果が得られなくなる可能性に触れつつ、根拠はまだ十分でないとしています。

筋トレの時間と死亡などの関連をまとめた研究があります(Mommaら、2022年)。リスクが最も低いのは週30〜60分あたりでしたが、観察研究なので原因と結果までは分かりません。

1日50回は、1回2〜3秒として約2分、週14分前後です(この記事の計算)。時間の面では、多すぎるとは言えません。関節の痛みなどは別の話なので、「やめる目安」で扱います。

きっかけの動画の話はどこまで本当?

きっかけは、Dr. Sten Ekbergの動画「1日2回、25回の腕立て伏せをするとこうなる」。原題は This Happens When You Do 25 Push-Ups Twice A Day です。

公開は2026年4月24日で、2026年11月7日の確認では約224万回再生。日本語の題名は、YouTubeの翻訳表示の可能性があります。

YouTubeの動画ページ(Dr. Sten Ekberg)

主張は、動画の日本語字幕(自動吹き替えのもの)を読んで整理しました。動画はきっかけであり、この記事の根拠にはしていません。

主な話を8つに分け、PubMedとWeb検索で確かめた範囲を一覧にすると、次のとおり。

動画の主な話判定確かめられた範囲
①25回×1日2回が最適裏付けが見つからなかった該当の研究は見つからず
②約20の筋肉を使う裏付けが見つからなかった主に胸と腕の裏側
③40回で心臓発作が減る一部だけ消防士の関連のみ
④食後に動くと血糖が下がる一部だけ主に歩行の短期試験
⑤BDNFが増える一部だけ主に運動全般の報告
⑥朝のコルチゾールと内臓脂肪裏付けが見つからなかった該当の研究は見つからず
⑦2か月目から筋肥大一部だけ8週の変化の報告あり
⑧膝つきや壁で軽くできる確かめられた壁の測定値はなし

判定は「確かめられた」「一部だけ」「裏付けが見つからなかった」の3段階です。「見つからなかった」はPubMedとWeb検索で調べた範囲の話で、存在しないと言い切るものではありません。

①②④〜⑦は次の見出しから順に。③は「40回の研究」、⑧は「できない人の4段階」で詳しく扱います。

YU人
YU人
よく見る話なのに、裏付けが見つからないものもあるんですね。どう受け止めればいいのでしょう。
とりじん
とりじん
うそだと決めつける話ではありません。調べた範囲で言えるところと言えないところを分けただけです。

判定は動画や発信者の評価ではなく、話ごとの根拠の強さを見たものです。「一部だけ」の話も、条件を絞れば報告はあります。大事なのは、どの条件の話かを見分けること。

腕立て伏せは1日何回?25回の裏付け

「25回を1日2回」を調べた研究も、最適な回数を決めた研究も見つかりませんでした。「腕立て伏せを1日何回やれば効果が出るか」に数字で答えられる資料はなかった、というのが調べた結果です。

「休息日がいらない」という話に、厚生労働省の説明は逆向き。e-ヘルスネットの情報シート(2024年2月22日更新)は、筋トレでは休息日も設けるよう案内しています。

一方で、総量をそろえると週の日数で差が出にくいという報告は、前の見出しのとおり。毎日に分けること自体を悪いとまでは言えません。どちらかに振りきらずに読むのがよさそうです。

では回数はどう決めるのか。答えは「続ける目安」の見出しにまとめました。

効果が出る部位は?約20の筋肉の話

腕立て伏せの効果が出る部位は、主に胸と腕の裏側です。米国のNASM(全米スポーツ医学アカデミー)の解説では、主に働く筋肉を大胸筋と上腕三頭筋としています。

補助に挙がるのは、三角筋の前側、小胸筋、前鋸筋、体幹を支える筋肉。筋肉の活動を電気で測る研究30本のまとめもあります(Kowalskiら、2022年)。普通の形などで活動が高かったのは、上腕三頭筋と大胸筋でした。

「約20の筋肉」は、数の裏付けが見つからなかった部分。どこまでを1つと数えるかでも変わるので、この記事では数を出しません。

覚えておきたいのは、下半身は主役ではないという点。全身をどう補うかは、後半の「全身にならない」で触れます。

食後の血糖の話は範囲を限って読む

動画の要約では、筋肉はインスリンなしで糖を取り込めて、食後に動くと血糖が下がる、という話でした。ここは言い切らず、範囲を限って見ていきましょう。

仕組みには報告があります。筋肉が縮むと、糖の通り道(GLUT4)が細胞の表面へ移り、取り込みが増えるという説明です(Richterら、2013年)。

有酸素運動でインスリンに頼らない仕組みが働くことも、米国糖尿病学会の見解(2016年)に書かれています。

食後の運動には、Engeroffらの系統的レビュー(2023年発表、検索は2022年5月まで)があります。8試験・116人をまとめ、食後の運動は運動なしや食前の運動より、食後の血糖の上がり方をゆるやかにしたという報告です。

ただし、試験のバイアスのリスクは高いという評価。主な運動は歩行で、レビューの結論にも「運動、つまり歩行」とあります。食事のすぐあとがよく、間が空くと弱まるという整理でした。

腕立て伏せを含む自重運動は、結果が割れています。まず、スクワットや腕立て伏せなどを各10回×3セット行った試験(Solomonら、2020年、この運動は16人)。朝食の直後なら差が出て、直前と30分後では差が出ませんでした。

もう1つは、昼食後20分の休憩を挟んで筋トレ20分を行った試験(Yokoら、2021年、分析11人のうち筋トレは9人)。腕立て伏せやスクワットなどの内容で、有意な差は出ていません。

腕立て伏せ25回だけを調べた試験は見つかりませんでした。どれも一度の運動の短期の話で、治療の代わりにはなりません。

血糖の薬を使っている人へ

厚生労働省のガイド2023は、インスリンや分泌を促す薬で治療中の人は、運動で低血糖を起こす可能性があると説明しています。持病のある人、血糖の薬を使う人は、始める前に主治医に相談してください。

運動を続けても健診の血糖値が動かないなら、考えられる理由を次の記事で整理しました。

運動しても血糖値が下がらない|考えられる理由と見直し方

脳の物質・朝のホルモン・2か月の話

BDNFは言い切れない

BDNFは、脳の神経の成長に関わる物質。運動全般では、1回の運動で上がるという報告があります(Szuhanyら、2015年、29研究・1,111人)。

有酸素運動の直後の上昇は多くが一時的、とするレビューもあります(Knaepenら、2010年)。

筋トレに限ると結果が分かれます。同じレビューでは、1回の筋トレを調べた2研究で有意な影響が見られませんでした。一方、60歳以上の筋トレ11試験・868人のまとめでは血中の値が上がっています(Setayeshら、2023年)。

ただ、この上がり幅の95%信頼区間の下限は0.04で、0に近い値でした。腕立て伏せだけを調べた資料は見つからず、腕立て伏せでBDNFが増えるとは言えません。

朝のコルチゾールは確かめられず

朝のコルチゾールを活用しないと内臓脂肪になる、という話を示す研究は見つかりませんでした。これも、調べた範囲での話。

近いテーマのレビューもあります(Incollingo Rodriguezら、2015年)。腹部の脂肪が多い人でストレス反応が強い傾向を挙げつつ、反対の結果もあるとのこと。全体として、結論は出ていないとしています。

2か月目は区切れない

筋肉が大きくなる時期は、研究によって違います。運動不足の男性25人の8週の筋トレでは、3〜4週ごろに太ももの筋肥大が起きた可能性が示されました(DeFreitasら、2011年)。

一方で、未経験の若い男性10人の試験は、初期の増加にはむくみが混じると報告しています(Damasら、2016年)。早い時期の数字は、そのまま筋肉の増加とは読めません。

腕立て伏せそのものの試験もあります(Kikuchiら、2017年)。週2回を8週続け、大胸筋の厚さが17.0mmから20.8mmになりました。膝をつくなど、形を調整した腕立て伏せです。

条件は、19〜22歳の体育専攻の男子学生で各9人、3セットを限界まで、運動後の栄養補給つき。比べた相手はベンチプレスの群で、運動しない群ではありません。「週2回でも8週で変化が測れた例」までの話です。

どの研究も、「2か月目から」と区切る根拠にはなりません。90日で4,500回は、25回×2回×90日の計算としては合う数字。ただ、計算が合うことと体の変化は別の話です。

40回の研究を回数ごとの表で読む

「2019年のハーバードの研究」の元とみられるのが、Yangらの論文(JAMA Network Open、2019年)。筆頭著者らの所属はハーバード公衆衛生大学院ですが、対象は米インディアナ州の男性消防士でした。

人数は1,104人で、平均39.6歳。2000〜2010年の健診記録をもとに10年追跡し、心血管イベントが37件起きました。冠動脈疾患の診断、心不全、突然死などをまとめた数です。

測ったのは、メトロノームに合わせて1回の検査で何回できたか。その回数で5つに分けると、次のようになります。

回数人数と件数平均年齢
0〜10回75人・8件48.4歳
11〜20回200人・9件45.1歳
21〜30回389人・9件39.0歳
31〜40回285人・10件36.6歳
41回以上155人・1件35.1歳

次は、人数と追跡した長さをならした発生の割合。1人を1年追うと「1人年」と数えます。右の列は、年齢をそろえたうえで0〜10回を1とした比です。

回数10万人年あたり年齢調整後の比
0〜10回1,757基準
11〜20回6250.47
21〜30回2880.33
31〜40回4330.60
41回以上790.15

論文の本文にある「96%低い」は、年齢をそろえる前の数字です(比0.04)。年齢をそろえると41回以上は0.15で、95%信頼区間は0.02〜1.29。1をまたぐので、統計的に有意ではありません(P=.08)。

年齢をそろえた比較で有意だったのは、21〜30回の0.33だけでした(P=.03)。この数字の並びを、次の見出しで読み解きます。

YU人
YU人
40回もできないと、心臓が危ないということですか?数回で止まる人はどう考えればいいのでしょう。
とりじん
とりじん
そう読むのは早いです。男性の消防士の健診記録で、回数が原因とまでは言えない研究でした。

「40回」を合格の線にしなくていい理由

比べた人たちの年齢が違う

0〜10回の平均は48.4歳、41回以上は35.1歳で、13歳以上の開きがあります。BMIは33.1と26.8、今たばこを吸う人は24.0%と6.7%(Yangらの論文の表1)。回数が原因だとは言えません。

回数と発生率がきれいに並ばない

10万人年あたりの発生は、21〜30回の288に対し、31〜40回は433と上がっています。回数が増えるほど順に下がる形ではなく、40回に特別な線があるとは読めません。

41回以上は1件だけ

41回以上の155人で起きたのは1件です。もう1件増えるだけで、発生の割合は2倍になります(この記事の計算)。件数が少ないほど、数字は大きく動きます。

毎日続けた効果の研究ではない

測ったのは、1回の検査でできた回数。毎日腕立て伏せをした人の効果を調べた研究ではありません。推測ですが、検査の時点で体力があった人が多くできた、という読み方もできます。

論文の結論は手軽な目安どまり

論文は限界の章で、回数が独立した予測因子だとは支持しないと書いています。結論の位置づけも、体の機能を見る手軽な目安になりうる、というところまで。

対象は中年の働く男性で、女性や高齢者、運動をしていない人、他の職業には当てはまらない可能性があるとも書かれています。この研究だけでは、40回できないことを心配する理由にはなりません。

腕立て伏せができない人の4段階

白い大理石の上に、HOME WORKOUTと読める文字のタイルと乾いた花が並ぶ写真

普通の腕立て伏せが1回もできなくても、手の高さや膝で負荷を下げられます。形ごとの力を測った学会発表があります。

YU人
YU人
膝をついても1回できるか不安です。もっと軽いやり方から始めても意味はあるのでしょうか。
とりじん
とりじん
壁に手をつく形からで大丈夫です。形ごとに力のかかり方がどう変わるか、数字で見てみましょう。
形別の負荷(体重に対する最大の力)体重に対する割合手を約61cmの台に41%膝つき49%手を約30cmの台に55%普通の腕立て伏せ64%足を約30cmの台に70%
出典:Wurm, Ebben ほか「Kinetic analysis of several variations of push-ups」(学会発表、2010年)。平均22.5歳の男女23人の最大の垂直の力。壁とベッドは測っていない。

グラフの出典はWurmらの学会発表(2010年、平均22.5歳の男女23人)。同じ研究は翌年に雑誌にも載りました(Ebbenら、2011年)。普通の形の64%に対し、膝つきは49%まで下がります。

数字は動作中の最大の力で、平均の重さではありません。体力のある若い人の数字なので、自分に当てはめるときは目安にとどめてください。

壁とベッドの測定値は見つからなかったので、グラフに入れていません。「ベッドなら何%」とも書きません。

低い台(約30cm)は55%で、膝つきの49%より重い結果。高い台(約61cm)は41%で軽くなります。つまり、順番は台の高さしだい。

下の4段階の順番は、資料で決まったものではありません。NASMが軽くする方法に挙げる膝・台・壁と、英国の病院の手順、台が高いほど軽いという数字から、筆者が組んだ推測です。

1段階目:壁に手をつく

英国のSouth Tees NHSトラストの手順では、壁から一歩ほど離れて立ち、肩の高さで手をつきます。腕を曲げて頭を壁に近づけ、腕を伸ばして戻る動きです。

回数の指定はこの資料になく、理学療法士の指示に従う形。立ったまま始められるので、床に手をつくのが不安な人の入口になります。

2段階目:ベッドや高めの台

手を置く場所を、壁より低くしていく段階。高さで軽さが変わり、約61cmの台は41%でした。ベッドの高さは家ごとに違うので、ここに置いたのは推測です。

動かない台を選びましょう。キャスターのついた家具は、体重をかけたときに滑るおそれがあります(資料の話ではなく、この記事の注意点)。

3段階目:膝をつく

膝つきの負荷は、体重の約49%(Wurmらの学会発表)と約53%(Gouvaliら、2005年、男性8人)。負荷はかかるので、意味がないとは言えないでしょう。

筋肉の活動は普通の形より低い、という報告もGouvaliらの研究にあります。一方、膝をつく形も含めて調整した前述の試験(Kikuchiら)では、8週で筋肉の厚さに変化が測れました。ただ、対象は体育専攻の学生。

4段階目:普通の形

普通の腕立て伏せは、体重の約64〜66%(同じ2つの研究)。足を約30cmの台に乗せると70%まで上がるので、余裕が出てきた人の次の一手に。

次の段階へ進む回数は、どの資料にも指定がありません。回数の線は作らず、体をまっすぐ保ったまま動けるかで決めるのが、無理のない進め方だと筆者は考えます。

腕立て伏せができない女性と負荷の数字

腕立て伏せができない女性も、使う段階は同じです。上の試験の参加者は男性14人・女性9人で、形による力の変わり方に男女の違いは見られませんでした(Ebbenら、2011年)。女性だけ別のやり方が要る、という数字ではありません。

読み方には注意点も。対象は平均22.5歳の運動習慣がある人たちでした。男女の力の大きさが同じという意味ではなく、形を変えたときの変わり方の話です。

40回の研究は男性だけが対象なので、40回を女性の目標にする根拠にもなりません。1回もできないなら、入口は壁か高めの台。

続ける目安:回数の決め方と翌日の体

回数はできなくなる所まで

厚生労働省のガイド2023は、自宅なら無理せず「できなくなるところまで」が最も簡単な目安だとしています。血圧の急な上昇を抑えるため、息をこらえないことも添えられています。

ACSMの2026年の見解では、限界まで追い込むかどうかで一貫した差は出ていません。そこから推測すると、形が崩れる手前で止めても問題ないでしょう。

翌日の生活に響いたら減らす

同じガイドによると、翌日の日常生活に支障が出る疲れは、強度や量が多すぎるサイン。まず休んで、次回から控えめに、という案内です。

少しずつ負荷を上げることと休む日を取ることは、どちらも大事だとされています。回数を増やす日と休む日を、セットで考えるとよさそうです。

急に増やさない

ガイドは、普段あまり動かない人が急に普段以上の運動をすると、体調を崩すなどのリスク(有害事象)が高いと説明しています。動画を見て、いきなり毎日50回にするのは避けたいところです。

毎日できない日があっても、意味がなくなるわけではありません。公的な目安が週2〜3日なので、週に数日できていれば目安の中。

e-ヘルスネットは、運動教室など集団の場で一律のノルマを設けず、個人に合った目標を勧めています。家で1人でやるときも同じ考え方でよさそう。ここは推測です。

腕立て伏せだけでは全身にならない

雪の積もった森の一本道を、遠くを歩く2人の後ろ姿

厚生労働省のガイド2023が勧めるのは、特定の部位ではなく全身まんべんなく。胸・背中・上肢・腹・臀部・下肢といった大きな筋群です。腕立て伏せの主役は胸と腕の裏側なので、これだけでは全身まんべんなくになりません。

ガイドが自重の例に挙げるスクワットを足すと、下半身も入る形に。増やすのは1つからで十分でしょう。

もう1つは、冬に減りがちな歩くこと。これは筋トレとは別の推奨です。同じガイドが勧めるのは、歩行以上の身体活動を成人で1日60分以上(約8,000歩以上)、高齢者で1日40分以上(約6,000歩以上)。

座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように、という呼びかけもあります。こたつから立つついでに壁で数回、のように、家の中できっかけを作ると続けやすくなるでしょう。

痛いときにやめる目安と相談先

立っている人が、白いシャツの人の腕を手首と肩の近くで支えている。顔は写っていない

厚生労働省のガイド2023にある安全の目安を、表にまとめました。血圧の単位はmmHgです。

場面目安どうする
運動中胸の痛み・動悸・めまいすぐ中止
運動中関節や筋肉の強い痛みすぐ中止
運動前熱・だるさ・寝不足の不調無理しない
運動前血圧160/100以上散歩程度まで
運動前血圧180/110以上控える

運動中に中止する目安は、ほかに、ふらつき、強い空腹感やふるえ、いつもと違う強い疲れ、冷や汗も挙がっています。

運動で悪化する腰・膝・関節の問題があるなら、先に医師に相談を。ガイドは、低強度・短時間から始めることや、その部分に負荷がかからない運動を選ぶことも挙げています。

手首や肩は、ガイドに個別の記述がない部分。腕立て伏せは手と肩に体重を乗せる運動なので、同じように考えるのが筆者の読みです。

持病のある人向けには、ガイドに開始前のチェックシート(図1)があります。かかりつけの医師にも確認してください。

運動をやめても胸の痛みが続くときなどは、医療機関へ。原因の判断はこの記事ではできません。

よくある質問

Q. 毎日10回でも意味はある?

A. 毎日10回、30回、50回、100回を比べた研究は見つかりませんでした(PubMedとWeb検索の範囲)。効くのは総量という報告が多く、今の自分ができる範囲を週2〜3日から始め、少しずつ増やす形が公的な目安に沿っています。

Q. 腕立て伏せは1日何回やる?

A. 最適な回数を決めた研究は見つかりませんでした。厚生労働省のガイド2023の目安は、自宅なら無理せず「できなくなるところまで」。息をこらえず、翌日の生活に支障が出ない量に調整します。

Q. できない女性はどこから?

A. 壁か高めの台からで大丈夫。形を変えて力を測った試験(男性14人・女性9人、平均22.5歳)で、形による力の変わり方に男女の違いは見られませんでした。同じ4段階を使えます。

Q. 効果はどの部位に出ますか?

A. 主に胸(大胸筋)と腕の裏側(上腕三頭筋)で、肩の前側や体幹も補助として働きます。厚生労働省のガイド2023は全身の大きな筋群を鍛えるよう勧めているので、スクワットなどを足すと下半身も補えます。

Q. 筋肉痛の日も続けていい?

A. 翌日の日常生活に支障が出るほどの疲れなら、まず休み、次回から量を控えめにします(厚生労働省のガイド2023)。関節や筋肉の強い痛みがあるときは、すぐに中止します。

まとめ

腕立て伏せは毎日でなくても、公的な目安に沿って続けられます。回数より大事な3つの目安は次のとおりです。

  • 週2〜3日を基本に、休む日を入れる
  • できなくなる所までを目安に、息をこらえず少しずつ増やす
  • 胸の痛みや関節の強い痛みが出たら止める

「40回」を合格の線にしなくて大丈夫です。できない人は、壁か高めの台から始められます。

次に読む

数字の根拠

いずれも2026年11月7日に確認しました。「この記事の計算」と書いた数字は、本文の条件や下の資料の数字から計算したものです。

  • 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(2024年1月。週2〜3日、休息日、できなくなるところまで、中止の目安、血圧の数字):ガイド本編PDF
  • 厚生労働省 同ガイドの概要(1日60分・約8,000歩、1日40分・約6,000歩):概要PDF
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「情報シート:筋力トレーニングについて」(2024年2月22日更新):e-ヘルスネットのページ
  • Yang ほか、JAMA Network Open、2019年(1,104人、39.6歳、37件、表の全数字、96%、P値、信頼区間、BMI、喫煙):論文全文
  • Wurm ほか、ISBS学会発表、2010年(グラフの41・49・55・64・70%、23人、22.5歳):発表全文PDF
  • Ebben ほか、Journal of Strength and Conditioning Research、2011年(男性14人・女性9人、男女の違い):PubMedの抄録
  • Gouvali ほか、同誌、2005年(66.4%、52.9%、男性8人):PubMedの抄録
  • Kikuchi ほか、Journal of Exercise Science and Fitness、2017年(17.0mm→20.8mm、週2回×8週、各9人。本文の表1):論文全文
  • Schoenfeld ほか、Journal of Sports Sciences、2019年(25研究):PubMedの抄録
  • Schoenfeld ほか、Sports Medicine、2016年(10研究、週2回と週1回):PubMedの抄録
  • Grgic ほか、Sports Medicine、2018年(22研究、0.74〜1.08、p=0.421):PubMedの抄録
  • 米国スポーツ医学会の見解 Currier ほか、Medicine & Science in Sports & Exercise、2026年(137のレビュー、週1日と週5日超、週2回以上):PubMedの抄録
  • Momma ほか、British Journal of Sports Medicine、2022年(週30〜60分):PubMedの抄録
  • Engeroff ほか、Sports Medicine、2023年発表(8試験、116人、検索は2022年5月まで):論文全文
  • Solomon ほか、Pflügers Archiv、2020年(各10回×3セット、16人、30分後):PubMedの抄録
  • Yoko ほか、Journal of Occupational Health、2021年(筋トレ20分、昼食後20分の休憩、11人と9人):論文全文
  • Richter ほか、Physiological Reviews、2013年(筋肉が縮むときの糖の取り込み):PubMedの抄録
  • 米国糖尿病学会の見解 Colberg ほか、Diabetes Care、2016年(インスリンに頼らない経路):論文全文
  • Szuhany ほか、Journal of Psychiatric Research、2015年(29研究、1,111人):PubMedの抄録
  • Knaepen ほか、Sports Medicine、2010年(1回の筋トレの2研究):PubMedの抄録
  • Setayesh ほか、Geriatric Nursing、2023年(11試験、868人、下限0.04):PubMedの抄録
  • Incollingo Rodriguez ほか、Psychoneuroendocrinology、2015年(コルチゾールと腹部の脂肪):PubMedの抄録
  • DeFreitas ほか、European Journal of Applied Physiology、2011年(25人、8週、3〜4週ごろ):PubMedの抄録
  • Damas ほか、同誌、2016年(10人、むくみ):PubMedの抄録
  • Kowalski ほか、Shoulder & Elbow、2022年(30本、筋肉の活動):PubMedの抄録
  • NASM「Push-Up」(主な筋肉、軽くする方法):NASMのページ
  • South Tees Hospitals NHS Foundation Trust「Combined press ups」(壁と膝つきの手順):South Teesのページ
  • Dr. Sten Ekberg の動画(公開日、再生数。根拠にはしていません):YouTubeの動画ページ

この記事が役に立ったら、とりじんをフォローしてください

X(旧Twitter) Instagram